喪失の夜に、あなたがいた

処置室の扉は閉じたまま、中の様子は一切わからなかった。

楓はその前で立ち尽くし、
 ただ明莉の名前を心の中で呼び続けた。

(明莉さん……どうか……)

祈りは声にならず、 胸の奥で何度も何度も繰り返された。

どれほど時間が経ったのか、
 楓にはわからなかった。

ただ、
 手の震えが止まらなかった。

自分の手を見つめる。
 その指先には、まだ明莉の温度が残っている気がした。

(僕が……離れなければ……)

どうしてもその思いに支配されていた。
胸の奥が強く痛んだ。