喪失の夜に、あなたがいた

救急車の扉が閉まる瞬間まで、楓は明莉の手を離さなかった。

その手は、
 信じられないほど冷たかった。

(明莉さん……)

名前を呼んでも、
 返事はない。

担架の上で揺れる明莉の身体は、
 あまりにも軽く、
 あまりにも弱く見えた。

胸の奥が、
 ぎゅっと締め付けられる。

救急車が走り出す。

赤い光が窓に反射し、
 楓の顔を照らした。

その顔は、
 普段の冷静さとはまるで違っていた。

震えていた。
 強く噛みしめた唇から血が滲んでいた。