喪失の夜に、あなたがいた

楓は唇を噛みしめ、
 明莉の手を強く握った。

「……守ります。
 絶対に……」

その声は、
 涙で濡れていた。

少し離れた場所で、
 玲奈が立ち尽くしていた。

顔色が真っ青で、
 震える手を胸の前で握りしめている。

「……違う……私は……そんなつもりじゃ……」

誰も彼女を見ていなかった。
 誰も彼女の言葉を拾わなかった。

ただ、
 楓が一度だけ玲奈を見た。

その目は、
 怒りでも憎しみでもなく──

絶望だった。

「……あなたが、明莉さんを……」

言葉にならない声が漏れた。

玲奈はその視線に耐えられず、
 一歩後ずさった。

救急隊が到着し、
 明莉は担架に乗せられた。

楓はずっと手を離さなかった。

「楓……行きなさい。
 あなたがそばにいなければ。後のことはこの私にまかせなさい」

祖母の言葉に、
 楓は強く頷いた。

「行きます。
 明莉さんを……守ります」

その声は震えていたが、
 決意だけは揺れていなかった。

担架が動き出す。
 明莉の視界はぼやけたまま。

でも──
 楓の手の温かさだけは、
 はっきりと感じられた。

(……楓さん……)

名前を呼ぼうとした。
 でも声にならなかった。

ただ、
 楓の手が離れないことだけが、
 明莉の最後の意識を支えていた。

そして──
 静かに暗闇が落ちてきた。