喪失の夜に、あなたがいた

「テレビで拝見しているわ。
 あなた、ずいぶん頑張っているのね」

「……ありがとうございます」

言葉を返した瞬間、
 玲奈の目がわずかに細くなった。

「でも──あなたは知らないでしょう?」

「……え?」

胸の奥が、ひゅっと縮まった。

玲奈は一歩近づく。
 香水の匂いが、やけに強く感じられた。

「佑輔さんとのこと。
 あなたが流産したこと。
 契約結婚の噂。
 全部、週刊誌に出る予定だったのよ」

明莉の呼吸が止まった。

世界が、音を失う。

「記事は出る直前で消されたわ。あなたの事務所小さいのにやるわね。
 事務所が必死で止めたから。
 あなたを守るためにね」

明莉は言葉を失った。
 喉が乾いて、声が出ない。

玲奈は楽しそうに微笑んだ。

「その情報──私が流したの。情報なんて本当にお金さえ払えば買えるのよ」

明莉の指先が震えた。

「SNSもそうよ。
 “泣いてる”“向いてない”“復帰早すぎ”
 全部、私が書いたの」

明莉の胸が強く軋む。

「DMも送ったわ。
 『今日、全部終わるよ』って」

明莉は息を呑んだ。
 足元が揺れるような感覚。

「あなたは守られてばかりでいいわね。 
 佑輔さんにも、事務所にも、楓さんにも。
 全部、あなたのために代わり誰かが動く。あなたは何も知らないまま。
 そんなのおかしいでしょ。あなたは守られていたことなんて知らずに生きている。
 私はそのことが許せないのよ」

玲奈はさらに一歩近づく。

「でも──今日で全部終わるから。あなたの女優人生も、すべて終わらせてやる。
 私は私の居場所を取り戻すのよ。重森楓の隣を……」

その言葉は、
 刃物のように明莉の胸に突き刺さった。