喪失の夜に、あなたがいた

グラスを握る指先が、ほんの少しだけ震えていた。

理由はわからない。
 ただ、胸の奥のざわめきが消えなかった。

楓はさくらと一緒に来客へのあいさつの為に席を外すため、明莉に声をかけた。
「明莉さん。少し祖母と一緒に挨拶まわりに行ってきます。少し待っててくださいね」 

その時──
 背後から、柔らかい声が落ちてきた。

「佐伯明莉さん。
 少し、お話ししてもいいかしら」

振り返ると、白石玲奈が立っていた。

距離が近い。
 初対面のはずなのに、
 まるで昔から知っているかのような目で見てくる。

「……はい」

明莉は小さく頷いた。
 断る理由が見つからなかった。玲奈は微笑んだ。
 その笑顔は美しいのに、どこか冷たかった。