喪失の夜に、あなたがいた

楓に言おうとした。
でも、言えなかった。

言えば、楓が困る。
楓が傷つく。
楓が責任を感じてしまう。

それが怖かった。

胸の奥に、
黒い影がゆっくりと広がっていく。

リビングに戻ると、
楓が静かに立ち上がった。

明莉の姿を見て、
ほんの少しだけ目を見開いた。

「……とても、綺麗です」

その言葉は、
飾り気がなくて、
まっすぐで、
優しかった。

明莉は弱く笑った。

「ありがとうございます……」

声が震えていた。
でも、楓は気づかないふりをした。

それが、優しさだとわかっていた。

「そんなに緊張しなくてもいいですよ。
 明莉さんもパーティーの参加はあると思います。
 気軽に参加してください。一人、明莉さんに会ってほしい人がいるんです」

「私にですか?」

「明莉さんのファンなんだそうですよ。年甲斐もなく」

少しおかしそうに楓は笑った。

その笑顔が、
ほんの一瞬だけ明莉の緊張を和らげた。

玄関の扉を開けると、
外の空気は少し冷たかった。

車に乗り込む。
ドアが閉まる音が、
やけに大きく響いた。

(……大丈夫。楓さんがいるから)

そう思おうとした。
でも、胸の奥の影は消えなかった。

車は静かに動き出した。

楓の世界へ。
そして──
影の中心へ。