喪失の夜に、あなたがいた

朝。
カーテン越しの光が部屋を淡く照らす。

明莉はゆっくりと起き上がり、
深く息を吸った。

リビングに行くと、
楓が静かに朝食を並べていた。

「おはようございます」

その声は、
いつもより少しだけ柔らかかった。

「……おはようございます」

温かいスープを口に運んでも、
胸の奥の緊張はほどけなかった。

「支度は……ゆっくりで大丈夫です。
 時間はありますから」

楓はそう言ったが、
どこか落ち着かないようにも見えた。

寝室に戻ると、
ベッドの上には昨日楓が置いてくれたドレスがある。

淡い色のロングドレス。
光の角度で表情が変わる、静かな輝き。

(……こんな綺麗なもの、私に似合うのかな)

鏡に映る自分の顔を見て、
明莉は少しだけ息を呑んだ。

疲れが残っている。
目元の赤みも消えていない。

でも──
楓が選んでくれたドレスを着たいと思った。

ゆっくりと着替え、
髪を整え、
メイクをしていく。

鏡の前で、
明莉は何度も深呼吸をした。

(……大丈夫。行ける)

そう言い聞かせた瞬間、
スマホが震えた。

通知は切っているはずなのに。
胸がざわりと揺れた。

画面を見ると、
“匿名アカウント”からのDMが一件。

短い文章だった。

「今日、全部終わるよ」

明莉は息を呑んだ。
怖かった。

指先が震えた。
心臓が痛いほど脈打った。

(……どうして。なんで今日……何があるというの?)