喪失の夜に、あなたがいた

明莉は毛布を握りしめたまま、
ゆっくりとソファの背にもたれた。

世界はまだ灰色で、
未来はまだ見えない。

でも——
この静かな部屋の中で、
楓が少し離れた場所にいてくれることだけは、確かに感じられた。

その距離が、今の明莉にはちょうどよかった。

胸の奥の痛みは消えない。
消えるはずもない。

それでも、
壊れた心が完全に崩れ落ちないように支えてくれる温度が、
この部屋には確かにあった。

明莉はゆっくりと目を閉じた。
深く眠るわけではない。
ただ、壊れた心を休めるための、静かなまどろみへ落ちていく。

その瞬間、
明莉はようやく気づいた。

(……私はまだ、生きている……)

その事実が、痛みと同じくらい静かに胸へ沈んでいった。

少し話せるようになった明莉は、楓に問いかけた。

「どうして、こんなに優しくしてくれるんですか……?
 私はもう何も持ってないのに……」

かすれた声で、一生懸命に言葉を紡いだ。

「僕は、佑輔の親友なんです。
 あいつとは、いいことも悪いことも一緒にやってきました。
 あいつは、ずっとあなたのことを気にかけていたんです」

楓は少し目を伏せ、続けた。

「持ってなくていいです。
 僕は……あいつに、今までの分を返してるだけですから」

そう言って、楓は寂しそうに笑った。