喪失の夜に、あなたがいた

「……ごめんなさい……」

明莉は慌てて目元を拭った。
涙を見せたくなかった。
弱さを見せたくなかった。

でも、止まらなかった。

「今日……すごく……しんどくて……
 何もできなくて……
 迷惑ばかりで……」

言葉が途切れた。

泣き声ではない。
ただ、静かにこぼれる涙だった。

楓はすぐには近づかなかった。
触れれば、明莉がもっと泣いてしまう気がした。

ただ、
そっと視線を落とし、
明莉の涙を受け止めるように呼吸を整えた。

「……泣いていいですよ。
 僕に触れられるのが不快でなければ……少しだけ、支えさせてください」

その言葉は、
優しさというより“許し”に近かった。

明莉は唇を震わせ、
小さく頷いた。

楓はそっと、
明莉を抱きしめた。

涙がまた一粒、落ちた。

しばらくして、
明莉は深く息を吸った。

「……楓さん、ありがとう……
 ほんとに……ありがとう……」

その声は、
泣き声よりも静かで、
泣き声よりも痛かった。

楓はゆっくりと目を閉じた。

守りたい──
その全部を、喉の奥で飲み込んだ。

「……ゆっくり休んでください」

それだけを言った。
それ以上は言えなかった。