喪失の夜に、あなたがいた

(……見られている)

(……誰かが、明莉さんを追っている)

その“気配”はまだ形を持たない。
けれど、確実に近づいている。

楓はそっと視線を落とし、
慎重に言葉を置いた。

「……困ったら、言ってください。
 できることはします」

それは“守りたい”という気持ちの表れだった。
しかし楓は、
その気持ちを押しつけるような言い方はしなかった。

触れない距離のまま、
ただ静かに寄り添う。

明莉は小さく頷いた。
その頷きが、
どこか弱くて、
どこか痛かった。

その夜。
明莉が眠ったあと、
楓は一人でリビングに残った。

スマホを開き、
SNSの画面をスクロールする。

《復帰早すぎ》
《迷惑かけてるらしい》
《泣いてるって聞いた》
《女優なんて向いてない》

どれも、
明莉の姿ではない。

(……誰だ)

(……何が目的だ)

胸の奥で、
静かな怒りが形を持ち始めた。

影はまだ見えない。
でも、確実に近づいている。

楓は画面を閉じた。

「……大丈夫です。必ず……」

その声は、
誰にも聞こえないほど小さかった。