喪失の夜に、あなたがいた

玲奈はスマホを手に取り、
 ゆっくりと指を動かした。

《現場で泣いてるって聞いた》
 《復帰早すぎじゃない?》
 《迷惑かけてるらしいよ》
《女優、なんてにあわない、やめればいいのに》

投稿は短く、
 淡々としていて、
 感情の色がほとんどない。

それがかえって、
 影を濃くした。

(……これでいい)

(……これが正しい私が元の場所にもどしてあげるよ)

明莉が揺れれば、
 楓は自分のほうを見る。

楓はまだ気づいていないだけ。
 自分が隣にいるべき人だということに。

(……気づかせてあげないと)

その想いは、
 優しさの形をしていた。

けれど、
 その優しさはどこまでも歪んでいた。

夜。
 玲奈は自宅の窓辺に立ち、
 街の灯りをぼんやりと眺めた。

「楓さん……」

その名前を呼ぶ声は、
 誰よりも優しくて、
 誰よりも静かだった。

「あなたの隣に立つべき人は、私ですよ」

その言葉は、
 誰にも届かない。

楓にも、
 明莉にも、
 世界のどこにも。

ただ、
 玲奈の胸の奥だけで響いていた。

「……もう少しで、戻りますから」

その微笑みは、
 美しくて、
 そして、
 どこまでも危うかった。