喪失の夜に、あなたがいた

重森楓の名前をニュースで見たのは、
ほんの偶然だった。

企業の特集記事。
新規プロジェクトの発表。
その横に写っていた楓の写真を見た瞬間、
胸の奥がふっと温かくなった。

「……楓さん」

小さく呟いた声は、
自分でも驚くほど柔らかかった。

楓は、特別な人だ。
自分が隣にいるべき人。
自分が支えるべき人。

その感覚は、誰にも理解されなくていい。
理解される必要もない。

ただ、玲奈の中では
“それが正しい”と確信していた。

数日後。
SNSで偶然、別の名前を見つけた。

佐伯明莉。

女優。
復帰。
撮影再開。

その記事を読んだ瞬間、
胸の奥がひやりと冷えた。

(……この人が、楓さんの隣にいる)

それは事実ではない。
ただの噂。
ただの憶測。

でも、玲奈の中では
“十分すぎる理由”になった。