喪失の夜に、あなたがいた

控室に戻ると、
スマホがまた震えた。

《泣き演技だけは得意だよね》
《復帰してすぐ泣くとか草》
《現場で迷惑かけてるらしいじゃん》

明らかに、
誰かが意図的に流している。

(……どうして。どうしてこんなこと。誰か見ているの?)

胸の奥がまた沈んでいく。

せっかく少しだけ光が見えたのに、
影がその光を飲み込むように濃くなる。

(……負けたくないのに)

指が震えた。

スマホを伏せると、
涙が滲みそうになった。

でも──
泣きたくなかった。

泣いたら、
また「泣いてるらしい」と書かれる。

泣いたら、
誰かの思う壺になる。

(……泣かない)

明莉はぎゅっと唇を噛んだ。

そのとき、
控室の扉がノックされた。

「佐伯さん、次のシーン準備できました」

スタッフの声は優しかった。

「……はい。行きます」

立ち上がるとき、
胸の奥にふっと温かいものが灯った。

(……楓さんが言ってくれたから)

『戻るって決めたなら、
 俺はあなたを支えます』

その言葉が、
影の中で小さな光になっていた。

(……頑張りたい。ちゃんと、戻りたい)

明莉は静かに息を整え、
スッと立ち上がった。

影は濃い。
圧は強い。
不安は消えない。

それでも──
明莉は前に進んだ。

その背中は、
確かに少しだけ強くなっていた。