喪失の夜に、あなたがいた

気持ちが追いつかない。
明莉はぼんやりと天井を眺めたあと、
ふと視線を向けると、少し離れた場所に楓が座っていた。
明莉が起きたことに気づいたのか、ゆっくりと顔を上げる。

「……おはようございます」

その声は、驚くほど静かで、優しかった。
強くも弱くもない、ただ寄り添うための声。

明莉は返事をしようとしたが、喉がうまく動かず、
小さく息が漏れただけだった。

楓はそれを責めることも、急かすこともせず、
ただ静かに頷いた。

「無理に話さなくていいです。……目を覚まされてよかった」

その言葉に、胸の奥が少しだけ緩んだ。
涙がにじむ。

でも、泣く力すら残っていなかった。

明莉は毛布を握りしめたまま、
ただ静かに、心の底で呼吸を続けていた。