喪失の夜に、あなたがいた

休憩が終わり、再び撮影が始まった。

明莉は深く息を吸い、
ゆっくり立ち上がる。

(……負けたくない)

その想いだけを胸に、
セットへ向かった。

次のシーンは、
感情の起伏が大きい場面だった。

監督が声をかける。

「明莉ちゃん、いけそう?」

「……はい。やります」

震えているのに、
その声はまっすぐだった。

カメラが回る。

ライトが当たった瞬間、
明莉はまるで人が変わったように演技へ没頭した。
あの頃の感覚が、
少しずつ、確かに戻ってくる。

泣き崩れる寸前の揺れ。
言葉にできない痛み。
それでも前に進もうとする強さ。

その全部が、
自然に滲み出た。

「──カット。
 ……いいね、明莉ちゃん」

監督の声が響いた。

スタッフの空気が、
ほんの少しだけ柔らかくなった。

メイクさんが小さく拍手をしてくれた。

「戻ってきたね、明莉ちゃん」

その言葉に、
胸の奥がじんわり温かくなった。

(……よかった。ちゃんとできた)

ほんの小さな成功。
でも今の明莉には、
十分すぎるほど大きかった。