喪失の夜に、あなたがいた

SNSの嫌がらせは収まるどころか、
むしろ増えていた。

誰かが意図的に煽っているような、
そんな“外部からの圧”を感じる。

胸の奥の不安が、じわじわと広がっていく。

撮影が始まると、
明莉は必死に集中しようとした。

台詞は覚えている。
動きも問題ない。
役の感情も掴めている。

けれど──
ふとした瞬間に、視界の端が揺れた。

スタッフ同士が何かを話している。
その視線が自分に向いている気がして、
胸がざわつく。

(……気にしないで。気にしないで)

そう言い聞かせても、
心は言うことを聞いてくれなかった。

カメラが回る。
ライトが当たる。
台詞を言う。

でも、胸の奥の不安は消えない。

(……戻るって決めたのに)

(どうして、こんなに怖いんだろう)

佑輔の影。
SNSの影。

それらが全部、
明莉の背中に重くのしかかっていた。

休憩中。
明莉は控室の隅で、そっと深呼吸をした。

(……大丈夫。大丈夫)

そう呟いた瞬間、
スマホが震えた。

《また現場で泣いてるらしいね》
《復帰早すぎ》
《迷惑かけるなよ》

泣いていないのに──
嘘はやめてほしい。

誰が流しているのかわからない。
でも、明らかに“外部からの圧”が強まっていた。

(……どうして)

胸の奥が、また暗く沈んでいく。

そのとき──
楓の言葉がふっと浮かんだ。

『戻るって決めたなら、
 俺はあなたを支えます』

その声が、
胸の奥で静かに灯った。

(……楓さん。私、頑張りたい)

その名前を思い浮かべた瞬間、
ほんの少しだけ呼吸が楽になった。

でも、影は消えない。
むしろ濃くなっていく。

明莉は静かに目を閉じた。

(……負けたくない)

その想いだけが、
かろうじて自分を支えていた。