喪失の夜に、あなたがいた

撮影所の門をくぐった瞬間、
胸の奥がぎゅっと縮まった。

久しぶりのドラマ撮影。
本来なら懐かしさや高揚感があるはずなのに──
明莉の足取りは、重かった。

(……大丈夫。戻るって決めたんだから)

そう自分に言い聞かせながら、
スタジオへ向かう。

スタッフが明莉に気づき、
一瞬だけ空気が揺れた。

「おはようございます……」

頭を下げると、
スタッフは笑顔で返してくれた。

けれどその笑顔の奥に、
ほんの少しだけ“気遣い”が混じっているのがわかった。

(……迷惑、かけてるよね)

胸の奥がきゅっと痛む。

メイク室に入ると、
鏡の前に座った自分の顔が少し強張って見えた。

メイクさんが優しく声をかける。

「明莉ちゃん、久しぶりだね。
 無理しないでね」

「……はい。ありがとうございます」

その言葉が嬉しいのに、
どこか申し訳なくて、胸の奥がざわついた。

スマホを開くと──
通知が溢れていた。

《復帰とか笑わせるな》
《また迷惑かけるんだろ》
《どうせすぐ泣くくせに》
《あの件の真相まだ?》

指が震えた。

(……見なきゃよかった)

画面を伏せると、
心臓が早鐘のように鳴っていた。