喪失の夜に、あなたがいた

(……この人は、本当に強い)

けれど同時に、
その強さが痛々しく見える瞬間がある。

佑輔が守りたかった理由が、
楓には痛いほどわかった。

そして──
自分が守りたい理由も。

それはもう、
佑輔の影では説明できない感情だった。

明莉がキッチンへ向かう背中を見ながら、
楓は静かに目を閉じた。

(……俺は、どうしたいんだ)

守りたい。
そばにいたい。
傷ついてほしくない。

その全部が、
佑輔の影から生まれたものではない。

もっと深い場所から湧き上がる、
自分自身の想いだった。

でも──
その想いを認めることは、
佑輔を裏切ることになる気がして怖かった。

罪悪感が、
胸の奥で静かに疼く。

(……踏み込んじゃいけない)

そう言い聞かせるたびに、
心の奥の光が揺れた。

明莉の笑顔を見るたびに、
その光は少しずつ輪郭を強めていく。

そして影は、
その光を飲み込むように濃くなる。

楓はその狭間で、
静かに立ち尽くしていた。

明莉がふと振り返った。

「楓さん……ありがとうございます。
 いつも、守ってくださって」

その言葉は、
楓の胸の奥にまっすぐ落ちた。

(……守りたいだけじゃない)

その想いは、
もう誰のものでもない。
楓自身のものだった。

佑輔の影が濃くなるほど、
楓の中の光は強くなっていく。

それはまだ言葉にならない。
まだ認められない。

けれど──
確かにそこにある。

楓の本心は、
静かに、確かに息をしていた。