喪失の夜に、あなたがいた

玲奈がラウンジを去ったあと、
記者はすぐに編集部へ戻り、
裏取りの準備を始めた。

しかし──
その動きは、思ったより早く“誰か”に察知された。

翌朝。
事務所の会議室には、重い空気が流れていた。

加苅は机に置かれた資料を見つめ、深く息を吐いた。

「……誰がこんな情報を流したんだ」

声は低く、怒りを押し殺していた。

隣には楓が座っている。
彼の表情はいつも通り静かだが、
指先がわずかに震えていた。

「明莉さんに……絶対に知られちゃいけない」

楓の声は、静かで、しかし切実だった。

そのとき、重森家から連絡が入った。

「週刊誌が動いている。濱崎佑輔さんが亡くなったことも、数日前に報道された。
 そのことも関係しているらしい。
 流産と……契約結婚の件だ。契約結婚については楓くんから何も聞いていないが、どういうことか説明してもらえるか?
 君が明莉を守ると言ったことは、こういう事なのか。
 だが記事は全力で止める」

その言葉は、
まるで緊急事態を告げる警報のようだった。

楓は静かに口を開いた。

「契約結婚の件については……明莉さんを守るために交わした約束です。
 今一緒に暮らしていますが、指一本触れていません」

重森家は短く答えた。

「……わかった」

事務所はすぐに弁護士を動かし、
週刊誌側に“法的圧力”をかけた。

「その情報はプライバシーの侵害にあたる。
 掲載すれば、こちらも相応の対応を取る」

編集部は抵抗したが、
裏取りの段階で重森家の名前が出た瞬間、
態度が変わった。

「……これは、出せないな」

記事は、
“事実だが公表されない”という形で止められた。

しかし──
止められたからといって、
影が消えるわけではなかった。