喪失の夜に、あなたがいた

けれど──
次の質問の角度が、ほんの少しだけ違った。

「休業中……心身ともに大変だったと聞きました。
 その時期のことを、少しだけお話できますか?」

言い方は穏やか。
けれど、どこか“踏み込みすぎている”。

(……どうして、そんなところまで)

胸の奥がわずかにざわつく。

「……はい。
 でも、今は前を向いています。
 支えてくれた人たちがいたので」

記者はまた頷いた。
しかし、その目の奥に
“誰かの影”がちらりと揺れた気がした。

まるで、
誰かに何かを吹き込まれているような──
そんな不自然な角度。

(……誰かの意図?)

その違和感は、
言葉にならないまま胸の奥に沈んだ。

撮影は順調に進んだ。
カメラのシャッター音が軽やかに響き、
スタッフの空気も穏やかだった。

けれど、
明莉の心の奥では、
小さなざわつきが消えずに残っていた。

「今日の佐伯さん、とても良かったです。
 復帰の言葉、きっと読者にも届きますよ」

記者がそう言って笑った。
その笑顔は優しい。
けれど、どこかで──
“何かを隠している”ようにも見えた。

スタジオを出ると、
夕方の光が街を淡く染めていた。

明莉は深く息を吸った。
胸の奥にある緊張が、少しだけほどける。

(……大丈夫。
 私は戻るって決めたんだ。
 こんなことぐらいで絶対にめげない。
 佑輔が戻りたがっていたあの場所に、私は帰る)

そう思った瞬間、
胸の奥に小さな光が灯った。

しかしその光は、
スタジオの中で感じた“違和感”に
静かに揺らされていた。