喪失の夜に、あなたがいた

「帰り道……ずっと誰かに見られている気がして。
 怖くて……」

明莉の声は震えていた。
楓はゆっくりと近づき、
けれど触れず、ただそばに立った。

「明莉さん。
 あなたは悪くありません。
 これは、あなたを傷つけようとする誰かの意図です」

その言葉は、
静かに、しかし確かに明莉の胸に落ちていった。

「……帰りは迎えに行きます。
 あなたが安心できるように」

その声は、
強さと優しさが同時に宿っていた。

明莉はその響きに、
胸の奥が少しだけ温かくなるのを感じた。

(……この人がいてくれるなら、大丈夫)

そう思えた瞬間、
胸の奥に小さな光が灯った。

しかしその光は、
外の世界に漂う“影”の気配に揺らいでいた。

明莉がソファに座ると、
楓は静かにキッチンへ向かい、
温かいハーブティーを淹れて戻ってきた。

「少し甘くしました。
 今日は……その方がいい気がして」

その優しさが胸に染みる。
けれど、心の奥のざわつきは消えない。

(……誰が、あんな写真を)

考えたくないのに、
考えてしまう。

スマホを握る手が震える。
画面の中の自分は、
ただ働いていただけなのに、
知らない誰かの言葉で傷つけられていた。

「明莉さん」

楓の声が、そっと明莉の思考を止めた。

「あなたは、何も悪くありません。
 これは……あなたを傷つけたい誰かの意思です。
 僕が必ず守ります」

その言葉は、
静かで、強くて、
明莉の胸にゆっくりと沈んでいった。

(……守られている)

そう思えた瞬間、
涙がこぼれそうになった。

けれど、明莉は必死に堪えた。
泣いてしまったら、
自分が壊れてしまいそうだったから。

楓はそれ以上何も言わず、
ただそばにいてくれた。

その沈黙が、
今日はいつもより温かかった。