喪失の夜に、あなたがいた

その優しさが逆に胸を締めつけた。

「……すみません」

「私の方から楓くんには言っとくから今日は帰りなさい」

明莉は小さく頭を下げ、
店を出た。

外の空気は冷たくて、
その冷たさが心の奥まで染みていく。

マンションまでの道が、
いつもより長く感じた。

歩くたびに、背中に視線が貼りつくような感覚があった。

(……また、見られてる)

足が止まりそうになる。
けれど、止まったら崩れてしまいそうで、
明莉は歩き続けた。

マンションの前に着いたとき、
ようやく胸の奥の緊張がほどけた。

けれど、心のざわつきは消えなかった。