喪失の夜に、あなたがいた

その夜、楓は明莉のために夕食を作った。
温かい味噌汁と、柔らかい煮魚。
どれも優しい味だった。

「……おいしいです」

明莉がそう言うと、
楓は少しだけ照れたように視線を逸らした。

「よかった。
 料理は得意ではないので……」

「そんなことないです。
 すごく……落ち着きます。
 これからは私が作ります。
 少しずつですが、外に出てみたいです」

その言葉に、楓は小さく頷いた。

「あなたが少しでも安心できるなら、それで十分です。
 少しずつでいいです。
 できないときは……一緒にやりますから」

その声に、胸がまた熱くなる。

夜、明莉は眠れずにリビングへ向かった。
すると、楓がまだ起きていた。

「眠れませんか」

「……はい」

楓は立ち上がり、
温かいハーブティーを淹れてくれた。

「これ、昨日より少し甘くしてみました。
 甘い方が好きですよね」

「……ありがとうございます」

カップを両手で包むと、
その温度が心の奥まで染みていく。

(……この人となら、少しずつ前に進めるかもしれない)

そんな思いが、静かに胸に灯った。