喪失の夜に、あなたがいた

妊娠がわかってから数日後。
 明莉と楓は、静かな夜のリビングで並んで座っていた。

テーブルの上には、
 小さなノートとペン。

まだ見ぬ子どもの名前を考えるためだった。

「どんな名前がいいかな」

楓が少し照れたように言う。

明莉はノートを見つめながら、
 胸の奥に浮かんだ想いをそっと言葉にした。

「……佑の字を、入れたい」

楓は驚いたように目を見開き、
 すぐに優しく微笑んだ。

「……明莉がそう思ってくれるのが、嬉しい」

明莉は静かに続けた。

「佑輔は……私の人生の一部で……
 楓さんの人生の一部でもあって……
 その人が願ってくれた未来を……
 私たちが繋いでいけたらいいなって」

楓はそっと明莉の手を握った。

「繋ごう。
 佑輔が願った未来を……
 僕たちが、ちゃんと形にしよう」

その言葉は、
 静かで、
 強くて、
 優しかった。

二人はノートにゆっくりと名前を書き始めた。

佑の字を中心に、
 いくつもの候補が並んでいく。

その文字は、
 未来へ続く光のように見えた。