喪失の夜に、あなたがいた

夕方。
 明莉は帰宅した楓を玄関で迎えた。

「楓さん……あのね」

声が震えた。
 言葉がうまく出てこない。

楓はすぐに気づいたように、
 優しく明莉の肩に触れた。

「どうしたの、明莉」

明莉は小さく息を吸い、
 震える声で告げた。

「……赤ちゃん、できたみたい」

楓は一瞬、息を呑んだ。

そして──
 次の瞬間、
 明莉を強く抱きしめた。

「……ありがとう……
 明莉……ありがとう……」

楓の声は震えていた。
 涙が明莉の肩に落ちた。

「俺……嬉しい……
 嬉しくて……どうしようもない……」

その抱擁は、
 これまででいちばん温かかった。

さくらも泣いて喜んだ。

「明莉ちゃん……!
 おめでとう……!
 家族が増えるなんて……こんな幸せなことないわ……!」

楓の母も、父も、祖父も、
 重森家全員が心から祝福してくれた。

明莉はその輪の中で、
 静かに思った。

(……私はもう、一人じゃない)