喪失の夜に、あなたがいた

撮影が続く日々の中で、明莉の生活はゆっくりと安定していった。

仕事が終われば楓の家に帰り、
 朝になれば楓の声で目を覚ます。

その繰り返しが、いつの間にか“当たり前”になっていた。

ある休日。
 明莉はさくらと久しぶりに会うことになった。

「明莉ちゃん」

さくらは
 

「きちんと、謝罪してなかったわよね。怖い思いさせてごめんね。
 あの時は楓を助けてくれてありがとう。
 でも……本当に良かったわ。
 明莉ちゃんが笑ってるの、久しぶりに見たわ。
 うちの本家にも二人で来て頂戴。息子夫婦も主人もきちんと会いたいって話しているわ」

その言葉に、
 胸の奥がじんわりと温かくなる。

「ありがとうございます。私は楓さんのそばにいてもいいですか?」
 
さくらは涙ぐみながら頷いた。

「もちろんよ。楓のこと改めてよろしくおねがいします。もう、重森家の嫁なんだから……。
 これからは重森家としても明莉ちゃんを守るわ。
 女優佐伯明莉が孫の嫁なんて自慢でしかないわ。
 お仕事はやめなくていいわよ。できないことは私と、楓の母がフォローするから」

その言葉に、
 明莉は少し照れながら微笑んだ。

数日後。
 明莉は楓と一緒に、重森家へ正式に挨拶へ向かった。

玄関で出迎えた楓の母は、
 優しく微笑んだ。

「明莉さん。
 ようこそいらっしゃいました」

その声は柔らかく、
 どこか安心を与える響きを持っていた。

明莉は深く頭を下げた。

「……これから、よろしくお願いします」

楓の父も静かに頷き、楓の祖父会長も微笑みながら、

「楓を支えてくれてありがとう。
 あなたが来てくれて……本当に嬉しい」