喪失の夜に、あなたがいた

その言葉に、
 胸の奥が温かくなるものがこみ上げてきた。

ある日の夜。
 食事を終えたあと、
 二人はソファに並んで座っていた。

ふと、楓が小さな封筒を取り出した。

「……これ、契約書」

明莉は息を呑んだ。

楓は封筒をそっとテーブルに置き、
 静かに言った。

「もう必要ないよね。
 俺たちは……契約じゃなくて、
 本当に夫婦として歩きたいと思ってる」

その言葉は、
 明莉の胸に深く沈んだ。

「……私も、そう思ってる」

明莉は封筒に手を伸ばし、
 ゆっくりと開いた。

中に入っていた契約書は、
 楓がすでに破棄の手続きを済ませていた。

紙の端が静かに揺れた。

それは──
 “過去”が終わった証だった。

その夜、
 二人は窓際に並んで座り、
 街の灯りを眺めた。

「……楓さん」

「ん?」

「これからも……一緒に歩いていきたい」

楓は少し驚いたように目を見開き、
 すぐに柔らかく微笑んだ。

「俺も。
 明莉となら……どんな未来でも歩ける。佑輔に恥じないように」

その言葉は、
 静かで、
 強くて、
 優しかった。

明莉はそっと楓の手を握った。

その手は、
 もう震えていなかった。

二人の生活は穏やかで温かく、
 そして確かに“夫婦”の形をしていた。