喪失の夜に、あなたがいた

病室に入ると、
 玲奈はベッドに横たえられた。

窓の外には、
 曇った空が広がっていた。

その空を見つめながら、
 玲奈はまた呟いた。

「……楓さん……どうして来てくれないの。
玲奈はずっと待ってるのに……。
 私は……あなたの隣に……」

言葉は途中で途切れた。

もう続きは出てこなかった。

その瞳は、
 焦点を失い、
 ただ空虚な光だけを宿していた。

看護師がカルテを閉じ、
 静かに言った。

「ご家族は……?」

刑事は短く答えた。

「来ません。
 今後も来ないでしょう。今はそれどころではないでしょう」

その言葉は、
 病室の空気をさらに冷たくした。

玲奈は、
 誰にも選ばれず、
 誰にも求められず、
 誰にも届かない場所へ落ちていった。

その日から、
 玲奈は毎日同じ言葉を繰り返した。

「……楓さん……
 楓さん……
 楓さん……」

その声は、
 誰にも届かない。

ただ病室の白い壁に吸い込まれ、
 消えていくだけだった。

そして──

玲奈の狂気は、静かに終わりを迎えた。

もう明莉と楓の未来に、
 影を落とすことはなかった。

SHIGEMORIホールディングスは、玲奈の親の会社との取引をやめ、
玲奈の親の会社は倒産し、両親ともども姿を消した。

二度と壊れた玲奈のことなんて気にとめることなんてなかった。