喪失の夜に、あなたがいた

精神鑑定の結果が出てから数日後。
 玲奈は静かに、誰にも見送られることなく、専門病院へと移送された。

拘置所の鉄の扉が閉まる音は、
 彼女の世界が完全に断ち切られた瞬間だった。

病院の白い廊下は、
 どこまでも静かで、
 どこまでも冷たかった。

玲奈は車椅子に座らされ、
 ぼんやりと前を見つめていた。

その瞳は、もう“現実”を映していなかった。

「……楓さん……」

誰に向けるでもなく、
 小さく呟く。

「楓さん……来てくれる……?私、ずっと待ってるのにどうしたのかしら。
 私のこと……わかってくれる……?」

返事はない。
 返事があるはずもない。

その言葉は、ただ白い壁に吸い込まれていくだけだった。