喪失の夜に、あなたがいた

しばらく二人で空を眺めていると、
明莉の胸の奥に、ほんの小さな温度が灯った。

恋ではない。
そんな感情を抱く余裕は、まだどこにもない。

でも——
この静かな時間が、壊れた心の底に
“再生の芽”をそっと置いていく。

明莉はゆっくりと目を閉じた。
風の音、楓の気配、夕方の匂い。
それらが胸の奥に静かに広がっていく。

(……少しだけ、頑張って生きてみよう)

その思いが、かすかに胸へ沈んだ。

家に戻ると、楓が小さく微笑んだ。

「今日は、よく頑張りましたね」

その言葉に、明莉は胸の奥が少しだけ温かくなるのを感じた。

世界はまだ灰色のまま。
未来もまだ見えない。

それでも——
明莉の心は、確かに昨日より前へ進んでいた。

「あの、重森さん。私、迷惑ばかりかけてしまって……ごめんなさい。
 ずっと一緒にいてもらって、本当に……なんて言ったらいいのか……」

「大丈夫です。仕事ならリモートでもできますし、それよりあなたのことが心配ですから。
 僕のことは楓でいいですよ」

「本当にすみません……。私は、明莉と呼んでもらって大丈夫です」

明莉は下を向きながら、そっと答えた。