喪失の夜に、あなたがいた

「……楓さん」

明莉はもう一度、名前を呼んだ。

楓は少しだけ身を乗り出し、
 明莉の言葉を待つ。

「あなたが……
 私を守りたいって言ってくれたこと……
 すごく……嬉しかったです」

楓の瞳が揺れた。

「佑輔を失って……
 私はもう誰も愛せないと思っていました。
 誰かを信じることも……できないと思っていました」

明莉はゆっくりと楓の手を握った。

その手は、
 昨日よりもずっと温かかった。

「でも……
 あなたがそばにいてくれた時間が……
 私の心を少しずつ……戻してくれたんです」

涙が一粒、静かに落ちた。

「あなたが泣いてくれたこと。
 あなたが叫んでくれたこと。
 あなたが……私を選んでくれたこと」

明莉は楓をまっすぐ見つめた。

「……その全部が、
 私の心を……救ってくれました」

楓の表情が崩れそうになる。
 必死に涙をこらえているのがわかった。

「だから……」

明莉は小さく息を吸った。

「……私は……
 あなたの気持ちを……受け止めたいと思っています。でも、守って欲しい
 とは思ってないです。私はあなたの隣を一緒に歩きたい」

その言葉は、
 明莉自身も驚くほど静かで、
 でも確かな強さを持っていた。

胸の奥で灯った小さな光が、
 ゆっくりと形を持ち始める。

それは──
 楓への想いだった。