喪失の夜に、あなたがいた

楓の言葉を口にしたあと、病室の空気がゆっくりと変わっていくのを感じた。

楓は驚いたように目を見開き、
 それでもすぐに優しい表情へ戻った。

急かさない。
 求めすぎない。
 ただ、明莉の言葉を受け止める準備だけをしている。

その姿が、
 胸の奥をまた強く揺らした。

明莉は視線を落とし、
 自分の胸にそっと手を当てた。

(……怖い。まだ怖い)

喪失の痛みは、
 完全に消えたわけじゃない。

佑輔の声は、今でも胸の奥に残っている。

でも──
 その痛みの隣に、
 新しい温かさが生まれている。

それは、
 楓がくれたものだった。

楓の言葉。
 楓の涙。
 楓の叫び。
 楓の手の温度。

その全部が、
 明莉の心を少しずつ溶かしていった。

(……私は……楓さんに……)

胸の奥がじんわりと熱くなる。

その熱は、
 悲しみの熱ではなかった。

優しさ。
 安心。
 そして──
 恋に似た、静かな温度。