喪失の夜に、あなたがいた

契約だから。
 義務だから。
 守ると決めたから。

そう言い聞かせて、自分の心を封じ込めてきた。

でも──

(……それでも、僕は……)

明莉の手を握る指先が震えた。

守りたい。
 そばにいたい。
 傷ついてほしくない。

その想いは、
 もう誰の影でもなく、
 楓自身のものだった。

(……僕は、どうしたいんだ)

胸の奥が痛いほど熱くなる。

佑輔のビデオメッセージ。
 明莉の涙。
 あの日の叫び。

「明莉さんを……助けてくれよ。……佑輔、明莉さんを連れて行かないでくれ……!」

あの声は、
 楓自身の心から溢れたものだった。

嘘でも、義務でも、契約でもない。
 ただ──
 明莉を失いたくないという叫びだった。

ずっと、自分の中に明莉への思いはあったが、
押し殺していたが、あの日、明莉を失ってしまうかもしれないと思った時、
どうしても自分の気持ちに嘘はつけないと思っていた。

その事実が、
 楓の胸をさらに締め付けた。

(……僕は、明莉さんを……)

言葉にならない想いが、
 胸の奥で静かに形を持ち始める。

楓は明莉の手をそっと額に当てた。

その瞬間、
 涙が一粒、静かに落ちた。

楓は泣く人ではない。
 どんな時も冷静で、
 どんな時も自分を律してきた。

でも今は──
 そのすべてが崩れていた。

「……僕は……あなたを守りたいんです……
  契約じゃなくて……
  義務じゃなくて……
  僕自身の気持ちで……」

その声は、
 誰にも聞こえないほど弱かった。

ただ、
 明莉の眠る横で、
 楓は初めて自分の心を認めた。