喪失の夜に、あなたがいた

さくらが病室に入り、明莉の容態を確認してから静かに言った。

「楓。少し席を外すわね。
 明莉さんと話したいことがあるでしょう」

さくらが出ていくと、病室は静かになった。

楓はしばらく黙っていた。
何かを迷うように、何度も明莉の手を握り直していた。

やがて、ポケットから小さな箱を取り出した。

「……これを、渡さなければいけません」

明莉は箱を見つめた。
胸の奥がざわりと揺れる。

「佑輔の……遺品です。
 僕が預かっていました。
 “いつか明莉に渡してほしい”と」

明莉の指先が震えた。

箱の中には、佑輔のスマホが入っていた。

ロックは解除されている。
画面には一つの動画ファイル。

楓は静かに立ち上がった。

「……本当は今のタイミングではないと思ったんですが……
 今、明莉さんを助けられるのは僕ではないと思います」

言葉を選ぶように、楓は一度目を伏せた。

「明莉さんが一人で見たほうがいいと思います。
 僕は外で待っています」

そう言って、
楓はそっと病室を出ていった。

扉が閉まる音が、
やけに大きく響いた。

明莉はしばらく動けなかった。

胸の奥で、
何かが静かに疼いていた。

佑輔のスマホをそっと手に取り、
画面に映る動画ファイルを見つめる。

(……佑輔……)

名前を呼ぶ声は、
自分でも驚くほど弱かった。

震える指で、
再生ボタンに触れた。