喪失の夜に、あなたがいた

まぶたの裏に、ゆっくりと光が滲んでいく。

遠くで誰かが名前を呼んでいるような気がした。
 その声は、震えていて、必死で、
 どこか懐かしい温度を持っていた。

明莉はゆっくりと目を開けた。

白い天井。
 消毒液の匂い。
 規則的に響く機械の音。

病室だ──と気づくまでに、
 少し時間がかかった。

視線を横に向けると、
 楓が椅子に座ったまま眠っていた。

明莉の手を握ったまま、
 肩を落として、
 まるで倒れ込むように眠っている。
いつもは決して触れようとしない、楓。
一度だけ抱きしめてくれたのと同じ、
その手も温かかった。

(……楓さん……)

名前を呼ぼうとした瞬間、
 楓の肩がわずかに震えた。

目を開けた楓は、
 信じられないものを見るように明莉を見つめた。

「……明莉さん……」

声が震えていた。

「よかった……本当に……」

楓は涙をこらえきれず、
 明莉の手を両手で包み込んだ。

その温度が、
 胸の奥にじんわりと広がった。