喪失の夜に、あなたがいた

あの日、明莉の前から希望が消えた。

病室の窓から差し込む白い光は、やけに冷たく見えた。 ベッドに横たわる佑輔は、明莉の手を握ったまま、弱々しく笑った。

「……明莉。俺、パパになるんだな。  俺、この子のためにも頑張って生きなきゃな」

明莉のお腹へ伸ばされた佑輔の手は、触れる前にふっと力を失い、落ちた。

その言葉が、最後になった。

医師の静かな宣告が響いた瞬間、明莉はただ茫然と立ち尽くしていた。

胸の奥で何かが崩れ落ちた。 世界が遠ざかっていく。 音も、色も、温度も、すべてが薄れていく。

心のどこかが、確かに壊れた。

その場に、明莉はゆっくりと倒れ込んだ。

「佐伯さん、大丈夫ですか?」

足の間から血が流れていた。

「ストレッチャー持ってきて! 産科の先生に連絡!」

遠くで声がして、明莉は自分が倒れたことだけをぼんやり悟った。

明莉は流産した。 身体の痛みよりも、心の奥にぽっかりと空いた穴のほうが、ずっと深くて、暗かった。

佑輔はあの子も連れて行ってしまった。 私には、本当に何もなくなってしまった。 未来を失うということが、こんなにも静かで、こんなにも残酷だなんて知らなかった。