トイレに行ってから、玄関のスーツケースから台本を取り出した。
台本? そんな代物ではない。
ただ、好きな映画やドラマの中で、好きなシーンのセリフを抜粋して打ち込んだだけの、紙。
お腹に力を入れ、顔を作り、声に出す。
「積もる話もあるだろう。まあ、座るといい」
首の向きを上手から、下手へ変える。
「はあ。じゃあまあ、ちょっとだけ……」
再び、首の向きを上手に戻し、
「それで、いつこっちへ戻ってきたんだ?」
再々、首の向きを下手に戻し、
「先週です。最初は帰ってこないつもりでした。でも、後で気づいたんです。やっぱり……」
ピンポーン。



