ノスタルジア





エダノが言っていた俳優基礎の授業が始まった。


開口一番、やたら目の渋い男の先生は、「丹田(たんでん)を意識して声を出せ!」と言った。タンデン?


「丹田の位置は、おへその下。指4本下のここ!」


と言いながら、横一列に整列している僕たちの丹田の場所を指で押さえていく。「ここ!」、「ここ!」と順番に。男女関係なく、「ここ!」、「ここ!」と。


その際、みんな「うっ!」とうめき声を上げて、後ろに仰け反る。ヨサノなんかは、「ぐへっ!」と北斗の拳のザコキャラが死ぬときみたいな声で、呻いた。


「あーっ! と丹田を意識して出せ! あーっ!」


周りが、「あーっ!」、「あーっ!」と声を出していく。それを一人一人先生がチェックしながら、「違う! あーっ!」と丹田に攻撃を食らわす。


「声を出す時に、お腹を凹ませるな! 大きな声を出すときは、お腹が膨らむんだ! オレのを触ってみろ!」


と先生がその場で横になる。僕たちは先生の背中に手を差し込んで、「あーっ!」と言うの感じる。たしかに、お腹がぷくっと、中から外に膨らむ感じがある。声もしっかり出ている。なるほど、俳優基礎。声の正しい出し方は、たしかに基礎だ。


「できるまでひたすらやれ! ほら、あーっ!」


僕たちは「あーっ!」を繰り返す。お腹に手を当てると、どうしてもお腹が凹んでしまう。小学生の頃、音楽の先生から言われていた、「お腹から声を出しなさい!」の真相は、これだったのかもしれないと思った。でも、僕たちはお腹に入った空気を口から出しながら発声することを、「お腹から声を出す」と勘違いして、ここまで成長してしまった。


理屈ではわかっていても、そう簡単にできるものじゃない。なんて難しい。「あーっ!」。焦る。でも周りもできていない、横一線。抜け出したい。「あーっ!」。