ノスタルジア





俳優を目指して入学した学校で、最初の授業。僕はこの先、二度と忘れることはないだろう。日本舞踊。略して、日舞(にちぶ)


なんとか流のなんとか、という年配の女の先生は、僕たちにまるで洗礼を浴びせる役でも担ったように、やたらと当たりが強かった。


「まずは、お手本を見せます。その通りにやりなさい」


とよくわからない振付を、どんどん進めていく。おそらくこうだろうという、推定で振付を行うと、「右と左、逆!」と叱責が飛ぶ。


「まるで、蝶が舞うように」


という小説の描写みたいな、曖昧なことも言われる。僕は頭の中で必死にモンシロチョウが飛んでいる姿を想像して、そのように舞うと、先生に「蛾になってる! 蝶になれ!」と理不尽に怒鳴られる。


カイエダやガースーも僕と同じような感じで、ヨサノに至っては、「お前はそこでみんながやるのを見てなさい!」と匙を投げられていた。


アベさんはセンスがあった。後で聞いたら、ダンスをやっていたらしく、振りを覚えるのがすこぶる早い。先生にも、「アベ、お前はいい!」、「アベ、お前はセンスがある!」と褒められていて、そのたびにアベさんは、えへへと笑ってみせるのだ。


「……可愛い」


と思わず僕は呟いた。


「え? あの先生が?」


と地獄耳のヨサノが言って、僕はヨサノの頭を叩いた。


その様子を先生に見られていたが、先生はうんうんと頷くだけで、僕を怒らなかった。