シャワーを浴び終わって、ドライヤーをかけていると、隣のハルミが、鍵がかかっていないことをいいことに、勝手に部屋に入ってきた。
「緊急事態宣言を発令します!」
「何事ですか?」
「部屋にね、ヤツが出たの! ヤツが! そこで竹野内翔太くんに、指令を言い渡す。私の部屋に出た、ヤツを駆逐しなさい!」
「はあ」
シャワーを浴びたばかりなのに、僕は渋々。渋々だ。ハルミの部屋に入って、ヤツを探した。
ヤツは、緑色したカナブンで、なんだ、カナブン。ティッシュで取って、外へ逃がしてやった。
「ねえ、翔太くん。私は、駆逐しなさいと命令したはずよ? どうして見逃したの?」
「春だから……ですかね」
「季節の問題?」
僕は自分の部屋に戻って、洗面台の鏡の前に立った。「あなた」と「わたし」を数回繰り返して、バカバカしい。
でも、これくらい狂っていないと、俳優にはなれないのかもしれない。と、思った。



