ノスタルジア





「食べ終わったし。帰ろっかな。お風呂入りたいし」


ハルミは「帰ろっかな」と言ったのに、足はもう、玄関へと続く廊下に向いていた。


「帰ろっかな」。これはあくまでも僕の感覚だが、帰るかどうか迷っている時に使いがちな言葉じゃないかなと思う。「帰るわ」なら、帰ることを決心した言葉。でも、「っかな」とつくと、帰らないという選択肢も、15%くらいは残っているのかなと思ってしまう。


「帰らないでほしい。って言ったら、どうしますか?」


今考えると、女性を部屋に連れ込んでいる状況にしては、恐ろしい言葉だなと思う。でも、帰らないでほしい。どこかに、それこそ15%くらいあった。


「翔太くんの屍を越えてでも、帰るよ、私は」


とファイティング・ポーズをとるものだから、不覚にも僕は笑ってしまった。


ハルミも一緒になって、クスクス笑った。この時初めて、笑顔が素敵な人なんだなということを知った。


「おやすみなさい」


「おやすみなさい。あ。ありがとうございました。そば」


「いいえー」


玄関のドアがガチャリと閉まった。僕は急に、孤独を感じた。