Clover、たったひとつの記憶

 トミオのいる芝生に空から陽光が差し込む。
 ゆっくりとトミオは杖を使って立ち上がった。ベンチに座ったトミオは、少女に四葉のクローバーを見せた。

「見つかって良かったですわ」

 四葉のクローバーを見つめて少女がふわりと微笑んだ。

「ありがとう、君のおかげだよ」
「きっと、おじい様の元に幸せが訪れますわ」
「……いや、僕は今までもずっと幸せだったんだ」

 トミオの言葉に少女は不思議そうに首を傾げる。

「それならどうして?」
「幸せになってほしい相手がいるんだ。……届けたくてね」

 少女は何かの衝撃を受けたように、その瞳を大きく見開く。

「……同じ、ですわ。彼女と……」
 
 少女はトミオの隣に座り、友達のことを話し始めた。
 この庭園で、少女とその友達は何度も出会ったそうだ。別れが迫った頃、友達は少女のために四葉のクローバーを探して贈ったという。『きっと、幸せになれるから』と、告げて。

「わたくしに幸せなんて・・・・・・」

 少女の頬に伝う涙。まるで一瞬前の自分の姿を見ているようだ。

(ああ、そうか。君も……)

  トミオは空を見上げた。
 細い線のような雲が空を駆けていた。
 
「誰でも幸せを願っていいし、叶えていい」

 少女はまっすぐな紫色の目でトミオの目を見つめ、言葉の続きを待つ。

「幸せを願える相手がいる。これはとても幸せなことなんだ」
「幸せを願える、相手……。それがおじい様の見つけた幸せ、ですの?」

 トミオは、煌めく噴水の水しぶきを見つめながら、小さく頷いた。

「おじい様、ありがとう。……わたくし、やっと心が決まりましたわ」

 少女は何かを吹っ切ったように、トミオに笑顔を見せた。

「僕の方こそ、ありがとう」

 トミオの言葉に少女は微笑んで答える。
 少女と共に見上げた空は、何処までも高く遠く、感じられた。
 
 -*-

 トミオは少女と別れ、黄色いバスに乗り込む。
 自宅でトミオを待つサツキの元へ戻るために。

「トミオさん、おかえりなさい。遅かった!」
「ただいま。遅くなってごめんよ」
「大丈夫。もう心配、終わった!」

 サツキには表情は無い。ただ黒いカメラがピンク色の光を灯すだけだ。
 それでもトミオにはサツキが嬉しそうに微笑んでいるように見えた。