終わらない夜に


「はっ……、はっ」

次第に呼吸が荒くなり、苦しさにその場に膝をついてしまう。

「つぐみ……?大丈夫?」
「すみ、ませ……私、暗いとこ……ダメで」
「わかった。無理に話さなくていいよ」

名執さんは私を落ち着かせようと、隣にしゃがみ背中をさすってくれる。
自分でもどうにか落ち着かなければと、思えば思うほど呼吸が乱れ、徐々に過呼吸になってしまった。

汗が噴き出し、視界がぐちゃぐちゃに歪む。
苦しさが余計に過去の記憶をフラッシュバックさせる。

苦しい、つらい……よりによって名執さんの前でこんな姿を見せるなんて。

「つぐみ。見て」

ふと優しい声で名前を呼ばれ、閉じかけていた目をそっと開ける。
すると未だ停電中のはずのエレベーター内は、先ほどとは一転して明かりが広がっていた。

見るとそこには、スマートフォンのライトの上に水が入ったペットボトルを置いて作られた即席ランタンがある。

照明の明かりほどは強くない。けれど中心から広がるような優しい明るさが、それまでパニックを起こしていたこの心を落ち着かせてくれた。

「ほら、もう大丈夫だから。ゆっくり吸って、吐いて」

背中に手を添えた彼に促されるまま息を吸って吐いてを繰り返すと、徐々に過呼吸は治まっていく。
さっきまで怖くてたまらなかったのに……大きな手と、その優しい声に安心する。

「すみません……ちょっと楽になりました」
「ならよかった」

安心したように私の頭を抱き寄せる、その腕にいっそう安心して頭を預けるように寄りかかった。

光を放つライトの横には、雑に置かれた彼の鞄がある。
そこから名執さんが急いで自分の鞄からペットボトルを取り出し、ライトを作ってくれたのだろうと想像することができた。

どうにか私を落ち着かせるために、考えてくれたんだ。

こういう冷静さと優しさに、また好きになってしまう。
自分じゃつり合わないとわかっていても、諦めることも離れることもできない。



ほどなくして明かりが戻りゆっくりと一階まで降りると、私たちはエレベーターから出ることができた。

出迎えたビルの人や設備関係の人たちに深々と謝罪をされる中、名執さんは一気に仕事モードの顔つきだ。

「原因は判明した?」
「安全装置の誤作動かと思われますが……念のため部品等異常がないか確認する必要があるかと」
「他のエレベーターに関しても確認が必要だな。同型のエレベーターを導入している他のビルにも共有をして──」

会社の人と話しながらも名執さんは私を見て難しい顔をする。
恐らく、この件で発生した業務にこのまま取りかかりたいのだろう。けれど私のことも気がかりといった様子だ。