終わらない夜に


名執さんと出会ったのは、私が高校2年生の17歳のとき。

今いるこの場でたまたま出会い、連絡先を交換して……。
それから何度か会ううちに、一緒に星を見たり話をしたり、時には食事に行ったりして過ごした。

そのうち私は名執さんのことが好きだと自覚したけれど、私と彼の住む世界は違うとわかっていた。
だからこの気持ちは言わずにいようと決めていた。

けれど出会ってから7年が経とうとしていた先月、まさかの名執さんから告白をされ、私たちは付き合うこととなった。



しばらく星を眺めたあと、私たちは展望台をあとにし、下りのエレベーターが来るのを待っていた。

「どこかで食事しようか。なに食べたい?」
「えっと……あ、じゃあ前にも行ったスペイン料理のお店にしませんか?あそこ美味しかったので、また行きたいなって」
「わかる、あの店美味かったよね。じゃあそこにしようか」

そんな会話をして、名執さんはスマートフォンでサッとお店に予約を入れた。

付き合って1ヶ月。私たちのデートはいつもこんな感じだ。
名執さんの仕事がこのビルであるときはこうして展望台で待ち合わせをして、少し星を眺めてから食事に行く。
そしてそのあとは……真っ直ぐ家に送ってくれる。

体の関係はおろかキスすらもまだで、大人の男女にしてはあまりにも健全だ。

エレベーターを待つあいだ、ふと目の前の鏡張りの扉に映る自分が目に入る。
垢抜けない黒髪に安っぽいブラウスとカーディガン、履き古したパンプスという私の姿は、上質なスーツをモデルのように着こなす名執さんと並ぶといつも以上にみじめだ。

……やっぱり、つり合ってないな。
好きな人の恋人になれて、こんなに優しくしてもらえて、どう考えても幸せなはずなのに。

なんで私を選んでくれたんだろうとか、ただの興味本位や本当は遊びなんじゃないかとか。
不安な気持ちがつねに胸を占めている。

こんな私だから、キスもそれ以上にも進めないのかな。
でも彼自身に聞く勇気もなく、モヤモヤとした気持ちを抱えたままやってきたエレベーターに乗り込んだ。

他に下る人はいなかったようで、珍しくエレベーターの中は私たちふたりきり。
会話が途切れたまま、下降するエレベーターに乗っていると──突然、エレベーターがガコンと音を立てて停止し、照明がふっと消えてしまった。

「わっ、えっ?」
「なんだ?」

真っ暗な中、名執さんはエレベーターのボタンを手当たり次第に押す。
けれどなんの反応もなく、唯一使えた非常ボタン越しにビル側と通話ができた。

「すみません、名執です。エレベーターが緊急停止して中に二名閉じ込められてます」
『えっ……名執常務ですか!? 申し訳ありません、今確認いたします!』

予期せぬトラブルだったのだろう、通話の向こうの相手は慌てたように答え周りからもガヤガヤと焦った声が聞こえた。

「少し待てば復旧するだろうから。少しの辛抱だね」
「そう、ですね……」

安心させるように言ってくれる名執さんに笑って答えるけれど、胸の奥がざわつき始めるのを感じた。

……どうしよう。暗くてせまいところ、苦手なんだよね。

子供の頃、母が怒るたびに私をクローゼットに閉じ込めていた時期があった。
せまくて暗いその場所に何時間も閉じ込められて、『出して』と叫んでも泣いても母の機嫌が治るまで出してもらえなかった。

ある夏の日にも同じことをされ、暑さと苦しさで吐いて気絶したことがある。
そこでようやく母もこの方法はいけないと気づいたようで、以来クローゼットに閉じ込められることはなくなったけれど……。

そのときの恐怖を思い出し、喉がキュッと絞まる感覚がした。

まずい、思い出してきた。
もう十何年も前のこと。私はもう大人で、今の状況は暗くてせまい以外なにも同じじゃない。
そうわかっているはずなのに、苦しい。