「すみません、不審者です。警察を呼んでください」
名執さんの呼びかけに、隣の家のおばさんがすぐさまスマートフォンを取り出して電話をかけるのが見える。
そこで私は子供たちのことをはっと思い出し、寝室へと駆けた。
襖を開けると、幸いふたりとも騒動にも気づかずまだぐっすりと眠っている。
その姿を見たことでようやく安心して、私は腰が抜けたようにその場に座り込んだ。
「よかった……」
「子供たちもだけど、つぐみは?」
「私は大丈夫です。怪我も大してしてないですし」
そう答えるけれど、叩かれた頬が赤く腫れていたようで、名執さんは悲しげに顔を歪めながら頬を撫でた。
「それにしてもすごくいいタイミングでしたね。まるでなにかのヒーローみたいで……」
気丈に振る舞おうとするものの、話しているうちに気が緩んできたのか、声が震え涙があふれてきた。
その涙を彼がそっと拭ってくれる。
「本当のヒーローだったら、大切な人に怖い思いなんてさせない」
それはまるで、自分があと少し早ければと自分を責めているかのようだ。
私の痛みを分かち合うような悲痛な面持ちに、胸が締め付けられる。
今ここにいてくれるだけで、私はなによりも幸せなのに。
その気持ちを伝えるように、私は頬に添えられたままの手に自分の手を重ねる。
「……ううん、名執さんはヒーローです。今日も昔も、いつも私を救ってくれた」
あなたがいたから、今日の私は助かった。
あなたがうから、過去の私は美しい星空と、信じられる人に出会い生きていく希望を見つけた。
「会えない時間にも心を支えてくれる。私にとって名執さんはヒーローで、夜空の一等星みたいで……」
……ダメ。
これ以上の言葉は、口にしちゃいけない。
そうわかっているのに、気持ちがあふれて止めることができない。
ひとりで子供たちを守り生きていくと決めたのに。
それ以上はいらない、望まないと決めたのに。
もう、無理だ。
「……好き……」
小さくこぼした言葉を彼は聞き逃さず、受け止めるように抱きしめた。
痛いくらいに力を込めるその腕が、この瞬間をずっと待ち望んでいたかのようだ。
口から出た言葉はもう戻らない。
隠すことも抑えることもできない。
最初から無理だった。
何年経とうとも、この気持ちは消すことも失くすこともできない。
彼が好きだという気持ちは、もう隠せない。



