日常の先



映画館へ向かう道。
イヤホンから流れる音楽。
休日の街。
ひとりで歩くこの時間、
やっぱり好きだなって思う。
でも今日は。
ふとした瞬間に、
スマホを見てしまう。
“彼氏”。
その存在が、
生活の中に自然に入り込んでる感じが、
まだ少しくすぐったい。
映画館に着いて、
チケットを発券する。
その途中。
スマホが震える。




〝ちなみに俺、
今めちゃくちゃ
「何してるんだろ……」
って考えてます〟





あなた、
思わず笑う。



〝秘密にされると余計気になるので
今後たまに教えてもらえるように
頑張ります〟





「頑張るんだ……」
小さく呟いてしまう。
なんかもう。
付き合った途端、
“知りたい”を隠さなくなってる。
でも、
重くない。
“教えて当然”
じゃなくて。
“知れたら嬉しい”
って言い方するから、
心地いい。
あなた、
少し考えてから返信する。

〝頑張り次第かもしれません〟
送信。

数秒後。

既読。
そして。

〝あ、駆け引き覚えてる、
だいぶ手強い…
でも好きです〟

「っ……。」
映画館のロビーで、
あなたはまた顔を隠した。
ほんと、
油断するとすぐそういうこと言う。
でも。
“好きです”
って、
こんなに自然に言われるの。
まだ全然慣れない。
映画が始まるまでの間、
カフェスペースでラテを飲む。
ぼんやり周りを見ながら、
ふと思う。
前だったら、
こういう時間。
“ひとり”を満喫して終わってた。
でも今は。
“この映画、
〇〇くん好きそう”
“このラテ、
今度おすすめしようかな”
そんなことを、
自然に考えてる。
その変化が、
少し不思議で。
でも、
嫌じゃなかった。


チケットを発券する。
その途中。
スマホが震える。

〝勝手な想像ですけど、
映画観に行ってるのかなーって〟

あなた、
思わず笑う。
(よく分かるなぁ……)
そのまま続けて通知。

〝席は真ん中あたりですか?〟

「……見られてる?」
小さく呟く。
確かに、
あなたは大体真ん中の少し後ろ派。
さらに通知。

〝ポップコーンキャラメル派なんですね〟
「…………ん?」
あなた、
ぴたりと止まる。
ゆっくり、
手元を見る。
今、
まさに買ったばかりのキャラメルポップコーン。
「……え?」
数秒。
それから。
あなた、周囲を見る。
休日の映画館。
人は多い。
カップル、
友達同士、
ひとり客。



びっくりした…
居るのかと思った…



と思っていると…
少し離れた柱の横。
帽子被って、
こちら見てる彼。
目、
合う。
彼、
「あ。」って顔した。
あなた、
完全停止。
彼、
気まずそうに片手上げる。
それから。
観念したみたいに、
笑った。
「……バレた。」
「なにしてるの?」
彼、
近づいてきながら、
めちゃくちゃ申し訳なさそうな顔。
「いや、
偶然です。」
「絶対嘘!」
「八割偶然です!」
「残り二割何!?」
彼、
ちょっと目逸らす。
「ほんと、偶然で…というか
なんか、勘が当たった、というか……?笑
先輩、絶対今日映画行くと思って。」
「っ……。」
図星。
彼、
困ったみたいに笑う。
「でも、
ほんとに同じ映画館いるとは思わなくて。
…ちゃんと、
“会わない日”守ろうと思って、ました!」
「過去形……」
彼、
ぐうの音も出ない顔する。
あなた、
じとーーーーーっと見上げる。
彼、
視線逸らす。
「う……。」
完全に負けてる。
でも次の瞬間。
観念したみたいに、
小さく笑った。
「……見つけたら嬉しくて、
見ちゃってました。」
「…」
「すみません」
潔すぎる謝罪に
あなた、
思わず吹き出す。
彼、
ちょっと照れたみたいに笑う。
「……ちなみに。」
そう言って、
すっとチケットを出す。
あなた、
何気なく見る。
そして。
「……え?」
席番号。
あなたの席の、
真横。
「…………。」
「…………。」
沈黙。
彼、
気まずそうに咳払いする。
「いや、
これに関しては本当に偶然で……」
「絶対嘘。」
「ほんとです!」
「目泳いでる。」
彼、
観念したみたいに肩落とす。
「……隣空いてるの見えたから、
つい。」
「つい、じゃないの……」
あなた、
呆れながら額押さえる。
でも。
怒る気には、
なれなかった。
だって彼。
めちゃくちゃ嬉しそうだから。
あなた見つけた瞬間から、
多分ずっと浮かれてたんだろうなって分かる顔。
彼、
少し伺うように聞く。
「……だめですか。」
「……。」
「嫌なら、
席変えます。」
笑ってしまうのが
変える気なんて無いのにいじけながら話す
その言い方に、
なんだか胸が温かくなる。
あなた、
少しだけため息吐いて。
それから、
笑った。
「……今日は、
“ひとり時間”だったんだけどなぁ。」
彼、
しゅんとする。
大型犬みたいに。
あなた、
その顔見て、
余計笑ってしまう。
「……でも、」
その瞬間。
彼、
ぱっと顔上げた。
「偶然だもんね?」
「…………はい。」
妙な間。
あなた、
じーーーっと見る。
彼、
耐えきれず目逸らす。
「かなり嬉しい偶然です!」
「はいはい。」
あなた、
呆れながら笑う。
彼、
そんなあなたを見て、
ほっとしたみたいに肩の力抜いた。
「怒られるかと思った……」
「ちょっと怒った。」
「ですよね。」
彼、
苦笑い。
でも、
嬉しそう。
隠せてない。
あなた、
そんな彼見ながら、
小さく首傾げる。
「……そんなに嬉しい?」
その瞬間。
彼、
ぴたりと止まる。
それから、
少し困ったみたいに笑った。
「……先輩、
自覚ないですよね。」
「え。」
「昨日付き合えたばっかりの彼女、
映画館で偶然見つけたんですよ?」
「……。」
「テンション上がらない方が無理です。」
真顔。
あなた、
ちょっと照れる。
彼、
さらに続ける。
「しかも、
ポップコーン持って、
“今日はちゃんとひとり時間楽しみます”みたいな顔して歩いてるし。」
「どんな顔……」
「可愛かったです。」
「…」
「あ、褒めすぎは駄目でしたね、すみません。」
全然反省してない。
あなた、
笑いながらチケット見直す。
本当に隣。
「……じゃあ、
今日は“半分ひとり時間”ね。」
「半分?」
「映画始まったらノーお喋りだからね。」
彼、
少し考えて。
それから、
ふっと笑った。
「ふふ、先輩っぽい。」
「何それ。」
「いえ、静かにしてます」
その言い方が、
優しくて。
あなた、
少しだけ胸が温かくなる。
彼、
並んで歩きながら、
小さく呟く。
「……でも、
隣で映画観れるの嬉しいな。」