死に戻り令嬢は義兄の溺愛にされる

その日バイカオウレン侯爵家に悲劇が起きた
齢5の侯爵令嬢が行方不明になったのである
捜索隊を編成し来る日も来る日も令嬢の行方を探していたが終に見つからず
侯爵家夫妻、特に夫人の哀しみは強く、臥すことが多くなった

数年後、小康状態になった夫人が慈善活動のため孤児院に訪れると行方不明になった娘に似た色彩を持つ孤児を見つけた

「貴女、名前は?」

『あたしの名前はクレマチスです、おきぞくさま』

月白の髪に萌黄の瞳。娘のマーガレットによく似た色彩だった


孤児にマーガレットの面影を見た夫人は夫に相談し養女として迎えた


クレマチスは努力した。実の両親には、迎えに来る、と孤児院に預けられたが終には来なかった
始めは寂しく涙を流す日も多かったが、孤児院での生活は悲嘆に暮れることは難しかった
支給はあるものの足りない食物や日用品、その日暮らしで精一杯なのに数年後には職を見つけて独り立ちをしないといけないハードモードである

そんな頃に降ってわいた養女の話、飛びつかないわけがない

温かく充分な食事、ふかっふかのベッド、快適な部屋
元の生家よりも孤児院よりも素敵な空間だった
なによりも新しい“家族”が嬉しかった
厳格な養父、穏和な養母、理知的な養方の兄

甘えることもなく、怠けることもなく、侯爵家の一員になれるように頑張った
仕草を優雅に、研鑽を積み、容姿を淑やかに
そんなわたくしに家族は優しかった
だから勘違いをした、わたくしは侯爵家の一員になったのだと


齢15になり学園に入学した
貴族と特待生の庶民が通うセフィロト魔法学園
2つ上の理知的な兄は豊富な魔力量でもち、生徒自治会の会長として辣腕を振るっている

魔力保有量は少ないが少ない魔力量での精密な魔力操作は得意だった
精密な魔力操作と侯爵家の養女という立場、勉学にも自信があった

でもそれでも、わたくしが庶民で孤児だったことは変わらない
学園では貴族たちには見下され、庶民たちには遠巻きにされ
そんな状況でも見放されたくないから、負担にはなりたくないからと優しい家族には相談できず
水の中で息をしようとするような、真綿で首を絞められるような、そんな苦しさをずっと感じていた



木々の葉が鮮やかな緑色に染まる頃、とある庶民が編入すると話題になった
噂によると聖なる力を発現させ、貴族に匹敵するほどの魔力量を持つらしい


その編入生は、彼女は銀色の髪に黄檗色の瞳をしておりマーガレットと名乗った
バイカオウレン侯爵家の悲劇、行方不明になったマーガレット嬢に違いなかった

すぐにマーガレットは義兄がいる生徒自治会に連れられ、そのままバイカオウレン侯爵家に行った
クレマチスは馬車に乗ることもできず、置いてかれた
徒歩で侯爵家に帰るころには陽が落ち、月影が見えていた

門番に一瞥され侯爵家の屋敷、声が聞こえる食堂に赴くと、家族団欒の姿だった
養父母、義弟が目を潤ませながら笑顔でマーガレットを迎え食事をしていた
声をかけれず、食事をする気にもなれず、自室に篭った
翌日、疎外感を感じながら朝食を食べた
義兄とマーガレット嬢と共に馬車に乗り込み、学園へ

馬車から降りる時に義兄はマーガレット嬢の手を取り、クレマチスはひとりで降りた

義兄とマーガレット嬢を感嘆する声とクレマチスを嘲笑する声を聞きながらサロンに逃げた
授業を受けれる気にはなれなかった

朽葉色の木の葉が落ち、吐息が白くなる頃、
ニセモノ侯爵令嬢、侯爵家の良心に寄生する悪役令嬢、気が利かない孤児
そんな誹謗を受けた
私物がなくなり、落書きされ、壊される

生徒たちからは距離を置かれ
使用人たちからは蔑視され冷遇され
家族と思っていた人たちから離縁された

クレマチスの居場所はなくなった




最後の優しさというべきか、鞄一つで侯爵家から追い出された
道端で茫然としていたところ、傍を走り抜けようとした馬車が泥濘に車輪を取られ横転
緩慢な動きで目の前に馬車が倒れてくると分かった時には全身に激痛が走り意識が遠のいた