はじまりは、再会の後から 〜二人のイケメンからプロポーズされて困惑しています〜

二人が椅子に座ってゆっくり三秒数えた後、哲平が口を開いた。

「沼田さんから連絡もらってさ、瀬戸って女性が自分の代わりに対応すると聞いたんだ。この仕事をしていれば、いつか会えると思っていたけど……。こんな風に瀬戸と再会できるなんてびっくりだ。昔のままのお団子ヘアだから直ぐに分かった。何年ぶりだろうな? 元気だったか?」

「うん……」

(この仕事をしていればいつか会えると思っていた?)

千雪はわずかな疑問と共に、うんとだけ返事をした。その短い答えに哲平は曇った表情をした。

「まだ俺のこと避けるの? ……高校の時は我慢できた。でも今は俺たち社会人だろ。仕事に支障が出るような事は止めようや」

「ごめ……。ちが……。ううん。そうだね」

哲平との高校時代の思い出が一瞬で蘇ってくる。千雪はむせ返るような感情を抑えるのに必死だった。胃のあたりがきゅっと痛い。

「それと……。瀬戸と絡んで仕事をするなら言っておく。うちの事務所に上原清香(うえはらきよか)が居る。今は接点ないんだろ?」

「あ……うん」

「彼女。先月、中途採用で入社してきたんだ」

(彼女……)

「そう。また上原さんが居るんだ」

千雪はそれ以上なにも言えなくなってしまった。下を向いて苦笑いをする。

哲平のきりりとした視線が千雪をじっと捉えていたが、千雪はそれに気づいていない。

「なるべく瀬戸と上原さんが関わらないように仕事進めるから」

「……いえ、大丈夫です。八奈見さんの言う通り、仕事に支障が出る事は控えましょう。これからよろしくお願いします」

平静を装って千雪は軽く笑顔を見せた。実は久しぶりに聞いた上原清香という名前に、千雪はかなり動揺していた。

千雪の気持ちを察したのか、哲平は何も言わず心配そうに眉をひそめた。

「……今日は顔合わせがメインだから、これで帰るよ。また連絡させてもらう」

そう言って立ち上がると、上着の内ポケットから名刺を一枚取り出した。

「これ俺の名刺。いつ会っても渡せるように用意してたから、ごめん少し歪んでるけど。でも、瀬戸のお陰で俺も今や一級建築士だぜ。じゃあな」

「え?私の……?どういう……」

(私のお陰で建築士?どういう意味?)

聞きたかったが哲平はあっさりと帰ってしまった。哲平を追いかけようと立ち上がった千雪だったが、力が抜けてすとんと椅子に落ちた。

こんな風に再会するなんて思っていなかった。しかも、清香も一緒だなんて。

哲平は、律儀で体育会系で硬派。でも圧倒的なコミュニケーション能力で皆から慕われる、不思議な魅力を持った人だ。捉えどころのないこの人を、捕まえられる人がいるのだろうか。

手渡された名刺の裏面には、手書きでプライベートの連絡先と『こっちにかけて』の文字が書き込まれていた。