はじまりは、再会の後から 〜二人のイケメンからプロポーズされて困惑しています〜

季節は春。お花見の時期。春とは言え、新潟ではまだまだ暖房が必要だ。この地域は夜桜が有名だが、お花見に行く際は上着が必須アイテムである漢字(かんじ)

そんな頃、瀬戸千雪は今日も職場で仕事に勤しんでいた。

専門学校を卒業し二十一歳でこの片平工務店に就職してから早四年。二十五歳の千雪はインテリアコーディネーターとして任される仕事も増えて、すっかり中堅社員になってしまった。

今は、千雪が担当しているモデルハウスの資料作りをしているところだ。今回は設計を外注したため、共同プロジェクトという形で工事が進むことになる。

「瀬戸」

不意に課長の沼田から声をかけられ、千雪は図面を描く手を止めた。沼田明俊(ぬまたあきとし)は四十五歳の独身で、少し適当なところが玉に瑕(たまにきず)だが、頼れる気さくな上司だ。

「はい」

短く返事をし、立ち上がって沼田のデスクへと歩み寄る。

沼田は面倒くさそうな表情で、持っていたスマホをポケットに突っ込んだ。そして大きなため息を吐くと千雪に目を向けた。

「今連絡があってな。現場でトラブったんだって。俺、これからそっちに行くから、よろしく」

(よろしく?)

トラブルと聞いて心配にはなるが、それ以上に沼田のよろしくが気になった。嫌な予感がする。まさか、この後の予定のことを言っているのではないだろうか。

「トラブルですか。大変ですね。で……この後の顔合わせはどうされますか?」

沼田はにやっと笑って横目で千雪を見た。

(え……?なに、その目。私に出ろとか言わないよね)

「だから、よろしく頼むよ。十時からだっけ、顔合わせ。心配するな、瀬戸なら大丈夫だ」

やっぱりかぁ。と、千雪は天を仰いだ。そしてダメ元で沼田を説得しにかかる。

「いえいえ!大丈夫じゃないです。ただの打合せとは違うんですから。新しい担当さんとの初顔合わせですよ?後日に日程調整しましょうよ」

「いや、いい」

沼田は満面の笑みで軽く言い放ち、親指をグッと突き出した。

「課長……またそんな適当に……。良いわけないじゃないですか!」

「向こうも一人で来るんだからさぁ、だぁいじょうぶだって。大いに親睦を深めてよぉ」

四十五歳の沼田の言葉が、羽毛より軽い。

「じゃ俺、急ぐから!あっ、そうそう。名前は八奈見くん。二十五歳のイケメンだって。がんばれ!」

(え?八奈見?)

千雪は思わず思考が止まった。しかしそれは一瞬で、沼田の後ろ姿に声をかける。

「ちょっと……課長!」

「フォローの連絡はしておくから〜」

被せ気味にそんな捨て台詞を残して沼田は去って行った。