はじまりは、再会の後から 〜二人のイケメンからプロポーズされて困惑しています〜

千雪は翔也が引っ越す前日、二人で最後の別れをした。その時に翔也から言われた言葉を思い出す。

『ちぃ、大好きだよ。でも……僕の憎い人になっちゃった』

『憎い人』という、たったその一言が千雪の心を凍てつかせた。それが翔也の優しさの裏に隠された本心だったのだ。

六歳の時から兄と妹のように過ごして来た。千雪にとって翔也は憧れの人で、大好きな幼馴染だ。そう思っていたのは自分だけだったのだろうか。

いつから自分は翔也にとっての憎い存在になっていたのだろう。それから千雪は一生懸命考えた。思い当たるとしたら、翔也が瀬戸家に遊びに来た時だ。やたら両親への羨望の眼差しと、千雪を羨む言葉があった。強いて言うなら、心当たりはそれくらいで、考えても分からない。苦しさだけが心に残った。

しかし、高校生になって哲平に出会った。そして翔也の言葉を思い出し悩むことが少なくなった。翔也に対する大好きとは別の『好き』という感情を知ったからだ。ほんの少しだけ芽生えた哲平への淡い想いも、清香との友情を優先したせいで、徐々に消えてしまったのだが。

翔也と哲平の二人を想う時、千雪の心にはいつも僅かな痛みが伴う。翔也から、ぽつりと言われた憎い人という呪縛の一言。哲平には近寄ってはいけないという、洗脳めいた監視の言葉。

千雪には、この記憶を忘れることなどできなかった。